1.高血圧

1)血圧の分類と治療

 脳卒中の危険因子のなかで最大のものは高血圧です。血圧が高いほど脳卒中の発症率が高くなることが、高血圧ばかりでなく正常血圧の範囲でも認められます。(図10)

【 図10 】

 正常血圧の中でも最も脳卒中を起こしにくい血圧値は120/80 mmHg未満です。この血圧値は、理想的な血圧を意味する至適血圧と呼ばれています。その上に正常血圧、正常高値血圧があり、ここまでが正常血圧の範囲で、140/90mmHg以上は高血圧です。正常高値血圧は、高血圧の人が血圧を下げる時にどこまで下げるかの目安として使われます。これを治療目標値と言います。一般的には140/90 mmHg未満の正常高値血圧が高血圧治療で達成しなくてはならない治療目標値ですが、糖尿病を合併した高血圧では、130/85 mmHg未満の正常血圧が治療目標値になります。(図11)

【 図11 】

 高血圧は軽症、中等症、重症の3段階に分類されています。
 このうち、直ちに血圧降下薬を使って血圧を下げるのは、重症高血圧、糖尿病や他に臓器障害、心血管病を有する危険性の高い群(ハイリスク群)です。
 他に重大な合併症がない場合は、中等症高血圧では3ヶ月、軽症高血圧では6ヶ月は生活習慣などを改善して血圧を下げる非薬物療法を試みて、それでも正常高値まで血圧が低下しない場合は血圧降下薬を使い治療目標値を達成します。

 治療目標値以下に血圧が保たれているか否かが、高血圧治療の成否の目安になりますので、治療をされている人は自分の血圧値に関心を持ち、生活習慣の中でも常に血圧を下げる努力をしてください。

2)血圧の薬と脳卒中予防効果
 高血圧の人では、血圧を正しく治療目標値以下にする事が脳卒中予防に最も重要なことであり、使う血圧降下薬の種類の違いによる脳卒中や心筋梗塞の予防効果には差のないことが最近確かめられています。
 血圧を下げる代表的な薬は、利尿をつけて血圧を下げる降圧利尿薬、血管を広げて血圧を下げるカルシウム拮抗薬、腎臓から分泌されるアンギオテンシンと呼ばれる昇圧物質の産生を抑えて血圧を下げるACE阻害薬、A受容体拮抗薬、交感神経の働きを抑えて血圧を下げるベータ遮断薬があります。2002年の暮れにアメリカから利尿薬に対してカルシウム拮抗薬(緑)とACE阻害薬(赤)がどれだけ多く脳卒中発症、心筋梗塞発症を予防することができるかを評価した研究が公表されました。(図12)

【 図12 】

 それによると、利尿薬とカルシウム拮抗薬の間に予防効果の差はありません。ACE阻害薬との間では利尿薬のほうが脳卒中と全心血管疾患の予防効果が優れていたことがわかりました。

 この結果を受けて、一般的な高血圧治療を開始する時に最初に使う薬(第一選択薬という)として2003年に発表されたアメリカの高血圧治療ガイドラインでは古くから使われていて脳卒中の予防効果も確かめられている利尿薬かベータ遮断薬を第一選択薬として使うことが推奨されています。日本ではどの薬から使い始めても良いことになっています。その中から患者さんの状態を考慮して最適の薬を選ぶとされています。現実には、新しく開発された薬が多く使われる傾向があります。新薬は古くから使われている薬より血圧に対する効果が優れ、副作用が出にくいと思い込むことが新薬を好んで使う原因となっているのかもしれません。

 図13は標準的な高血圧治療をおこなったときにかかる医療費(薬価)を示してあります。新薬は高い薬価を示しています。新薬を使うことは医療費負担を増大させます。薬の種類で予防効果に差がないのであれば、経済的観点から安い薬を選ぶべきです。古くから治療をしている人は、新しい薬のほうが良いと思わずに、慣れ親しんだ薬を正しく服用してください。

【 図13 】


3)血圧を高くする要因と改善での血圧低下期待値
血圧は高齢になるにしたがって上昇します。(図14)

【 図14 】

 上昇の傾きは一定で10歳高齢になるごとに平均値で最大血圧が6@Hg高くなります。
さらに、肥満や飲酒習慣のある人は同年代のない人と比べ高い血圧平均値を示し、肥満と飲酒が合併するとさらに高くなります。逆に、肥満の改善、飲酒量の低下、減塩、運動は血圧を低下させます。(図15)

【 図15 】

 平均値で見ると肥満では、3 Kg減量するごとに最大血圧値が2 mmHg低下します。
同様に食塩摂取量を現在の半分(6−7g/日)にして野菜などを多くして2倍くらい食べる食習慣で6mmHg運動(一日30分の早歩き)で5 mmHgの血圧低下が見込めます。最大血圧が1mmHg下がるごとに脳卒中発症率は5%低下すると考えられます。個人で数mmHgの血圧変化は測定ごとに観察されますが、生活習慣を変えて平均値で数mmHgの血圧低下がいかに重要であるかが理解できると思います。

 高血圧のみならず、血圧が正常の人も自分の血圧値が脳卒中を最も起こしにくい至適血圧に近づくよう努力してください。

脳卒中を予防しましょう!


知れば防げる脳卒中

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