たばこ警告表示に関する研究


■研究の背景と目的
 喫煙は多大な健康被害を及ぼすことから、国際的に協調してたばこを規制する目的で、たばこ規制枠組条約が2003年にWHOで可決された。そのことを根拠に、条約締結国は喫煙の健康被害について、タバコパッケージに警告表示する義務を負っている。たばこパッケージに印刷する警告表示のデザインは各国にまかされたため、文章による警告と写真を組み合わせる工夫をする一方で警告表示として分かりにくいものも存在している。わが国の警告表示は文章のみであるため、改善の余地があるとの意見もあるが、これまで警告表示の内容と表現の違いによる教育効果と警告効果を科学的に測定した研究はない。
この研究は、一般の人たちの目線で、警告文章のみの日本の表示と写真を加えたEUのたばこ警告表示を比較してもらい、どの表示が禁煙と喫煙抑止など教育効果に優れているかを明らかにして、今後のわが国のたばこ警告表示の改善に役立つ基礎資料を得ることを目的とした。
■対象と方法
 日本各地で調査研究がおこなえるよう、研究グループを組織した(クリックで表示)。
喫煙習慣は、10代半ばからそのきっかけを得ることも多い。喫煙抑止も念頭に入れて10歳代を含む一般の日本人を対象に、ヨーロッパ連合の写真を利用した10種類のたばこ警告表示(EU)と日本で使われている警告文章8種類(JP)を示して、その中で、たばこの害を知り、禁煙や喫煙防止に役立つ最も良いと思われる警告表示と最も悪いと思われる警告表示を選ぶアンケート調査をおこなった(調査用紙)。
中間集計の調査期間は、2010年3月から7月までとして、アンケートの集計と全体の解析は秋田県立脳血管研究センターでおこなった。
■研究組織
 参照
■調査地域
 北海道、秋田、岩手、栃木、東京、京都、高知、熊本、沖縄
■今年度の計画
 1)このアンケートを禁煙教育の教材として応用開発する。
 2)今年度中に結果報告書を作成する。


調査用紙
図1 回答者の性別年齢分布
図2 年齢別の喫煙状況
図3 年齢別の喫煙状況 男
図4 年齢別の喫煙状況 女
図5 写真を使った「たばこ警告表示」の知識とそれを使う賛意
図6 たばこ警告表示として「最も良い」、「最も悪い」の割合 『20歳未満も含む』
図7 たばこ警告表示として「次に良い」、「次に悪い」の割合
図8 たばこ警告表示として「最も良い」、「最も悪い」の割合 『たばこを吸う人』
図9 たばこ警告表示として「最も良い」、「最も悪い」の割合 『20歳以上のたばこを吸わない人』
図10 たばこ警告表示として「最も良い」、「最も悪い」の割合 『秋田、京都、熊本の高校生』
図11 たばこ警告3、5、10を最も良いとした人の年齢的特徴
図12 たばこ警告5、17を最も悪いとした人の年齢的特徴


■結果のまとめ
 地域集団、職域集団、大学・専門学校の学生および中高校の生徒、6056人にアンケート調査をおこない、5855人(平均年齢30.2歳±15.6)から有効回答を得た。未青年に積極的に調査をおこなった事もあり、男女とも若い年齢が多い(クリックで表示)。
 未成年でも、わずかの喫煙者が認められる(クリックで表示)。20歳代を除き、現在の喫煙者より禁煙をした人の方が多い。
20歳以上の喫煙率は14.5%、男の喫煙率は22.8%で、女の6.0%より高く、男女とも20歳代での喫煙者は、30歳代、40歳代に比して低い( クリックで表示)。
 日本では文章のみの警告(JP)であるが、対象者の48%は、写真を使うタバコ警告表示(EU)の存在を知っていた。タバコ警告表示に写真を使うことに回答者の85%が、賛成していた(クリックで表示)。
1から18のたばこ警告表示のうち、1から10はEUの写真であり、これを警告表示として最も良いとしたものは86%であり、そのなかでもの写真27%、が20%、10が17%でこの3種類で64%を占めた(クリックで表示)。最も悪い表示と考える61%もEUの写真の中から選ばれた。個別の表示では、5が30%で最も高く、ついでJPの文章17が23%、であった。その理由としてでは不快感、恐怖感が93%、17ではわかりにくい、不正確が58%であった。
 次に良いものでは、が14%,次に最も良いものとしては目立たなかったが14%、次に10が13%であった(クリックで表示)。一方、は2番目に良いものとして選ばれる割合は低い。悪いものとしては、が11%で最も多い。最も悪いものとして選ばれた17はその他の警告表示と変わらない割合を示した。これらを総合すると、10は1番目にするか迷うものであり、17は躊躇せず、最も良い、最も悪いと感じる警告表示であると思われる。
 喫煙者と20歳以上の非喫煙者に分けて、同様の比較をおこなった。喫煙者全体の73%は最も良い警告表示をEUの写真の中で選び、個別にはの写真が最も高く20%、次いで10が15%、が13%であり、最も悪いは、が36%、次いで、17が15%、が13%であり、写真を嫌う傾向が顕著であった(クリックで表示)。
 一方、非喫煙者では、全体の87%は最も良い警告表示をEUの写真の中で選び、個別にはが32%、が20%、10が18%であった(クリックで表示)。最も悪いはEUの写真が全体の52%で、個別ではが26%、次いで17が25%、が10%であった。
高校生のみで同様の頻度をみると、写真に対する反応は喫煙者と似通って高い率を示し、悪いものの46%を占めた(クリックで表示)。
 最も良いとされた上位3つの写真(10)について、喫煙防止の観点から10歳代を含めて30歳代を基準にして年齢と写真の評価(好み)の関係を性、喫煙の有無、医学系教育の有無を調整した多変量ロジスティック解析をおこない、明らかにした(クリックで表示)。最も良いと悪い、の両者で高い割合を示した写真5は若い人たちでの評価が高く、30歳代に比して10歳代、20歳代では1.6倍である(P<0.05)のに対し、高齢になると低下する傾向が認められる。3の写真は若い人での評価は低く、10歳代では0.5倍であった(P<0.05)が、30歳代以降での差はない。写真10と同様傾向を示したがより均等で、有意の差としては検出されなかった。
 最も悪いとされた上位2つの警告表示(517)で同様の解析をおこなった(クリックで表示)。警告表示が悪いと思う人は20歳未満の若年者と50歳以上高齢者に多いU字形をしめす。警告表示17は若い人で悪いと考える傾向があり、高齢になると許容する傾向が見られる。
 警告表示は女性、喫煙者では悪いと考え、医系の教育を受けた人では良いと考える特徴も認められた。
■結論
 この調査で明らかになったことは、最良と考える警告表示はもっぱら写真を用いたものであり、スローガン的内容の文章は健康被害を訴える警告表示としての評価が低いことである。最も良いたばこ警告表示はEUの写真が86%を占め、写真の警告表示を嫌う傾向がある喫煙者においても73%はEUの写真を選び、文章のみの日本の表示より写真の評価は高い。一方で、最も悪いとされる警告表示でも写真が61%を占め、非喫煙者集団においても58%が写真のほうを悪い警告表示として選んでいる。この主たる原因はの写真の評価であり、最も良いものと悪いものの両方で高い割合を占めた。5の写真は、警告表示17の悪いと考える理由がわかりにくい、不正確であるのとは好対照で、悪い理由は過度の不快感、恐怖感であり、この写真は、良し悪しは別にして印象が極めて強い警告表示であること示している。写真の警告表示は、一目見るとそこから得る印象が強く残るのに対し、文章のみの警告表示(JP)は健康被害を訴える力が弱く、短い文章ではとりわけ無視される傾向があると思われる。
 パッケージの限られたスペースに印刷されるたばこ警告表示は、健康被害を判りやすく、瞬時に注目して内容を伝えられるものが望ましい。写真それぞれに特徴があり、年齢によって健康被害を訴える力が異なる。とりわけ、若い人に対す喫煙抑止効果を考えた場合には、インパクトが大である5のような写真が効果的である事が示唆された。この研究結果が根拠となり、対象にあわせた有効な情報として写真を利用したたばこ警告表示の導入など、日本のたばこ警告表示の改善につながる事を期待したい。
■関連資料
 たばこ警告表示に関する研究
 調査用紙
 パッケージ写真




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